偏微分方程式を用いた社会的選択理論の研究

2018 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 26380250
• Research Institution: Doshisha University
• Principal Investigator: 茂見 岳志 同志社大学, 経済学部, 教授 (40367967)
• Project Period (FY): 2014-04-01 – 2020-03-31
• Keywords: 社会的選択関数 / 最適性 / 耐戦略性 / 交換経済

Outline of Annual Research Achievements

社会的選択メカニズムによる財配分問題において、最適（パレート最適な財配分を与える）かつ耐戦略的（正直な選好表明が最適な戦略である）な社会的選択関数で代替的独裁（常に一人の消費者がすべての財を配分される）でないものが存在するかどうかを解明するのが当研究の課題である。
消費者が2人ないし3人の場合にはそのような社会的選択関数が存在しないことは知られているが、消費者が多数の場合は未解明であった。前年度までの研究で、財の数が消費者の数よりも多い場合にはそのような社会的選択関数が存在しないこと、また、その結果は選好の領域を局所的なものに制限しても変わらないことを明らかにした。
本年度は、そのような消費者や財の数に制限がない場合にどうなるかという一般的な問題に取り組んだ。そもそも、2消費者経済からの演繹として、消費者が多数であった場合でも、最適かつ耐戦略的な社会的選択関数は代替的独裁なものしかないであろうというのが、長らく予想されながら証明されてない未解決問題であり、これまでの、消費者数が３や、消費者数が財の数より少ないという条件の下での結果は、この一般的な問題に対する部分的解答であった。
最近ようやくその予想が正しいことをを証明するアイデアを得て、現在、論文を執筆中である。消費者が多数であっても、彼らの消費ベクトルの方向を同一方向にそろえる適切な操作を加えることにより、彼らをあたかも一人の消費者として扱うことができ、3人の経済の場合と同じように分析することができるようになる。

Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

最適かつ耐戦略的な社会的選択関数が代替的独裁であるという予想の解明につながる着想を得て、証明の確認と論文の執筆を行っているところである。本来、今年度で完結する予定であったもので、進捗はやや遅れている。

Strategy for Future Research Activity

第一に、現在持っている着想で問題が解決できることを示し論文を完成させる。それが完成したのち、その結果の拡張として、以下の2つを考えたい。
１．消費者の選好の領域を局所的なものに制限する。財の数が消費者数より多い場合には、そのような拡張が可能であったが、一般的な場合を考えたい。現状の大域的な領域の場合の着想のままでは局所的な場合に拡張できないように思われる。
２．消費者の選好のタイプを限定する。消費者の選好を例えば、コブ・ダグラス型のものに限定したとしても同じ結果が得られるかどうかを考える。この問題は理論、応用、両面から非常に興味深い問題である。これまでの結果において、一般にマスキン変換と呼ばれる操作が重要な意味を持っており、選好の領域がマスキン変換を許容する「厚み」を持っていることが大きな意味を持っている。一方、コブダグラス型の選好のマスキン変換はもはやコブダグラス型ではない。つまり、マスキン変換を許容しない「薄い」選好領域では、既存の手法は使えず、最適かつ耐戦略的で非代替的独裁な社会的選択関数が存在する余地があるのではないかと思われる。

Causes of Carryover

これまで、問題は明確であったが、どのようにアプローチすればよいかわからない状態が長く続いていたため、学会発表等、研究成果の発信をおこなうことがなく、予定額と支出の乖離が続いていた。
先に述べたように、現在、アプローチの着想を得て研究を進めているので、その論文の完成とその後の学会発表等の費用に使用したい。