2015 Fiscal Year Research-status Report
スクリーンリテラシーの日豪比較研究~多文化主義政策の「学びの構造」分析を通して~
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26381182
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
柳沼 宏寿 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (00377178)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 映像メディア / 多文化 / レジリエンス / ヴァルネラビリティ / メタ認知 |
Outline of Annual Research Achievements |
27年度は、「映像メディアによる表現」の実践に関してオーストラリアと日本の比較研究を大きな目標に据えていた。まず、4月に新潟大学にて国際シンポジウム「多様化する社会における映像メディアによる表現の可能性」を開催し、オーストラリアのジェーン・ミルズをはじめオーストラリア多文化主義研究者である塩原良和、その他に日本での先行実践者を招聘した。このシンポジウムを通して、近年のオーストラリアにおけるコスモポリタン的多文化主義には「包摂と排除」の原理が潜在すること、そしてそれを乗り越える作用が映像メディアの表現過程に多く見られるメタ認知的要素にあることも明確になった。この成果は、今後多文化時代を迎える日本の教育へも大きな示唆を与えるものと考えられる。また、シンポジウムや作品上映会には福島の中学校・高校から震災後の取り組みが多数出品されると共に、「PTSD(心的外傷後ストレス症候群)」のような状況から子どもたちが本来持っている回復力を引き出す上で映像メディアが果たす役割についての提言があった。本研究における実践や先行研究の調査を通して、多文化社会におけるマイノリティ、あるいは精神的弱者の問題は、生態学、国際政治学、医学、社会学等々、あらゆる領域において指摘されている「ヴァルネラビリティ(脆弱性)」の傾向に集約できること、そしてそのような状況下で自らの有り様を映像メディアで表現することが、精神的抑圧からの開放、さらには未来への自信や希望につながることが浮き彫りになった。学会では、このことが特殊な事例ではなく普遍的な問題であることを研究成果とともに提言した。本研究のアプローチを通して、映像メディア表現がこれからのリテラシー構築へ大きく寄与していくことが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オーストラリアの研究者を招聘して、日本の研究者と実際に議論を交わせたことでオーストラリアと日本の比較研究がが進み、映像メディアによる表現の教育的効果が明らかにされてきた。特に、社会学の専門家との連携研究により、映像メディアを介して学校・社会・家庭の社会学的な考察を深めることができた。また、教育現場の実践者によって、震災後の教育活動との関連性に照明が当てられ、本研究における「学びの構造」の所在がより明確になってきた。一連の実践による成果を理論的に分析し、その成果をシンポジウムや学会にて継続的に発表してきたため、所期の目標は概ね達成できたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の目標は、本研究の最終段階として、これまでの取り組みで明確になった「学びの構造」を具体的な方法論につなげることである。まず、三年間の成果を整理して、映像メディアによる表現の教育的効果について理論的に検証するとともに、それを教育実践へ援用する手立てをモデル化して美術教育の新しいリテラシー構築へ寄与する。同時に日本とオーストラリアの実践交流を継続的なものにするための環境整備をめざし、本研究の研究成果とともに社会的に発信していく。
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Causes of Carryover |
残額分60,623円は3月18日の大阪成蹊大学への旅費にて使用済みである。本項目へは未だ反映されていない模様である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
理由に示した通り、使用済みである。
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Research Products
(7 results)