2015 Fiscal Year Annual Research Report
うつ病における新生神経細胞の役割の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Unraveling micro-endophenotypes of psychiatric disorders at the molecular, cellular and circuit levels. |
Project/Area Number |
15H01276
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
菅谷 佑樹 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00625759)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 神経新生 / うつ病 / 海馬 |
Outline of Annual Research Achievements |
海馬歯状回の神経細胞新生は人間においても生涯続き、新生細胞群の機能低下は気分の障害であるうつ病や不安障害の発症に深く関連していると考えられている。しかし、新生神経細胞がどのように気分を調節し、うつ病における歯状回ではどのような情報処理が障害されているのかは全く明らかになっていない。それは、歯状回の細胞活動の記録が難しい上に、電極による記録では古い歯状回顆粒細胞と新しい歯状回顆粒細胞の活動パターンを区別できなかったからである。本研究では、脳深部の細胞特異的なカルシウムイメージング技術を用いてうつ病モデルの動物における新生細胞の活動パターンを明らかにすることを目的としている。H27年度は、新生神経細胞特異的にカルシウムインジケーターを発現させたマウスを作出した。また、新生細胞ではなく成熟細胞の活動をイメージングするために、アデノ随伴ウイルスにより歯状回の興奮性細胞全てにGCaMP6またはG-CaMP8を発現させたマウスも作出した。それらのマウスの海馬歯状回直上にレンズを埋め込み自由行動下で歯状回の新生神経細胞と成熟神経細胞の活動を記録することに成功した。これまで自由行動下でマウスの新生顆粒細胞の活動を記録した報告はなく、極めて画期的な成果である。次に、これらのマウスに対して2週間の慢性拘束ストレスを与え、拘束ストレス終了後、抑うつ状態の評価に使用されるスクロース嗜好試験をおこなったが、まったく変化を認めなかった。そこで抑うつモデルを社会敗北ストレスモデルに変更し、これらのマウスの歯状回における新生および成熟細胞の活動を記録している。また、社会敗北ストレスモデルで差が認められない可能性を考え、恐怖条件付けのすくみ行動中の細胞活動も同時に記録している。現在は主に分裂後6週の細胞の観察を行っているが10週の細胞の活動も開始している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海馬新生神経細胞のカルシウムイメージングは予想通りに進展し、記録も既に多数の細胞からできている。また、分裂後6週の細胞だけでなく、10週を経過した細胞の記録も安定して行うことができた。当初予定していた慢性拘束によるうつ病モデルにおいて、拘束をおこなっても表現型が全く認められず、社会敗北ストレスモデルに変更した。社会敗北ストレスモデルでは、ストレス負荷後の社会接触試験において接触時間の低下を認めるなど、当該試験において抑うつ状態の指標となる表現型に差を見出すことができた。 ただ、恐怖条件づけなどの行動実験と比較すると社会敗北ストレスモデルでみとめられる行動の表現型でも安定しないことが多い。したがって恐怖条件付けにおけるすくみ行動時の歯状回新生および成熟顆粒細胞のイメージングも並行して行い、うつ病において頻繁に認められる不安症状の発現時の新生神経細胞の活動も記録することとした。 現在、上記の社会敗北ストレスモデルと恐怖条件付けの両方において歯状回の新生神経細胞と成熟神経細胞の活動を記録することに成功しており、分裂後6週と10週の細胞の活動の記録も成功している。抗うつ薬の投与による群も作成を開始しており、概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに恐怖条件付けにおいて記録した新生神経細胞数は解析に必要な数に達しており、H28年度は順次解析を開始する。また行動実験に関しては社会敗北ストレスモデルにおける標本数を増やし、抗うつ薬の投与群との比較を行うのに十分な標本数を揃える。また、光遺伝学的な手法により新生神経細胞を特異的に活性化できるマウスを作出中であるため、これらのマウスが出来次第、光刺激による抑うつ表現型の改善が可能かどうか検討を開始する。
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