2016 Fiscal Year Annual Research Report
Theoretical analysis of photochemical reactions of transition metal complexes –– the complex processes involving spin symmetry changes ––
Publicly Offered Research
Project Area | Science on Function of Soft Molecular Systems by Cooperation of Theory and Experiment |
Project/Area Number |
16H00855
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
倉重 佑輝 京都大学, 理学研究科, 特定准教授 (30510242)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 電子状態理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
計画初年度の研究として遷移金属錯体のリン光現象など複雑な光化学過程に関しての理論解析を推進した。遷移金属錯体のリン光・失活過程においては光反応に伴う構造変化に沿ったエネルギーポテンシャル曲面の形状と異なるエネルギーポテンシャル間の電子結合強度が決定的な役割を担うと考えられることから始めに各状態の安定構造の理論解析を行った。リン光効率は一重項励起状態からの無輻射失活と三重項状態への遷移速度、三重項状態から基底状態への無輻射失活とリン光発光など種々の過程の競合・競争により決定されることを踏まえ、各々の過程についてボトムアップ的な理論的解析を進めた。遷移金属錯体中における金属原子-配位子結合の記述は未だ容易ではない、特に金属-芳香環間の化学結合は分子構造的にも電子構造的にも柔軟性すなわち複雑性を内包する事から理論的な記述には困難が伴うため種々の計算方法の信頼性を検討した。理論の検討としてプラチナ原子を有し一次元直鎖を軸とする回転自由度を持った錯体やRu原子をシクロペンタジエニル配位子で挟んだ典型的なサンドイッチ化合物についてそのリン光発光効率や分子機構解析として基底状態、一重項励起状態、三重項状態の安定構造予測を密度汎関数理論と二次摂動近似クラスター展開法により行った結果、金属-配位子距離に0.1オングストローム以上の差が確認され、更に結合長の差がリン光の波長予測に大きな影響を与えることを明らかにした。これは同一の構造を用いた波長予測精度のみでは不十分で構造予測の段階で計算レベルの検討が重要であることが分かった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目的である金属-芳香環結合の記述に加え、芳香族共役系自体の柔軟かつ複雑な電子構造の記述は理論化学に残る課題の一つであり、特に励起状態の準位が近接することから現象に関わる励起状態の同定にも焦点をあて、今年度の計画は予定どおり達成できた。具体的にはピレン-ジメトキシベンゼン複合系分子の蛍光発光現象の理論解析を行った。特に当分子系は2つのメトキシ基の付加位置によってソルバトクロミズムの有無が異なり、そのメカニズムの理論的解明を行った。その結果、密度汎関数理論を用いた計算では溶媒の誘電率の大小に関わらず最低励起状態はピレン基内励起の性質を示し、ソルバトクロミズムは付加位置によらず再現されなかった。一方、高精度ab initio波動関数理論を用いた計算では実験と同じく特定の位置に付加したときにソルバトクロミズムを示すことが再現された。さらに励起状態波動関数の解析からソルバトクロミズムの起源をピレン基との結合位置に対するメトキシ基の付加位置の対称性に寄ることを明らかにした。
|
Strategy for Future Research Activity |
光や熱などの外場に応答しスピン状態が変化するスピン交差分子、項間交差を経ることによる三重項状態からのリン光発光分子、三重項への直接励起による近赤外吸収材料に関する光遷移及び緩和過程に対する理論解析を行い、分子構造に基づく機構解明・解析を実施する計画である。理論的には遷移金属錯体においては金属原子の重原子効果による相対論効果が無視できず項間交差やリン光などの現象を促進する。定性的には一重項と三重項などスピン対称性が異なる電子状態が主に遷移金属d軌道角運動量を起源とするスピン軌道相互作用により混合することによりスピン禁制遷移が可能となる。具体的にはスピン交差分子に対して異なるスピン状態のポテンシャルエネルギー曲面の交差点(交差面)におけるポテンシャルエネルギー曲面間の遷移効率について多状態多電子理論により理論的に解析することで、多段階のスピン交差を得ると考えられる金属錯体の外場応答スピン反転現象の理論的解明し、より効率的なスピン交差反応を起こす化学的条件を明らかにする。またリン光発光分子に対して光吸収を担う一重項励起状態からの項間交差へ至る反応経路を理論的に解析し、より効率的に三重項を生成するための科学的条件を明らかにする。特に化学修飾によるリン光発光の有無や発光強度、発光波長の変化に対して、電子構造を基礎とする記述により機構解明を行う
|
Research Products
(3 results)