Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
昨年度までの研究成果により、アミノペプチダーゼN(APN)の酵素活性が胆汁輸送たんぱく質(MRP2)の正常な発現レベル維持に必要であることが示された。今年度は、その詳しい分子機構を解明した。HepG2細胞株において、MRP2のユビキチン化を免疫沈降などにより調べた結果、中和抗体でAPN酵素活性を阻害した細胞でMRP2のユビキチン化が観察された。一方、レトロウイルスを使ってAPNの小干渉RNA(siRNA)を初代胎児肝細胞に導入することによりAPNの転写産物をノックダウンすると、中和抗体でAPNの酵素活性を阻害したときと同様に、MRP2のタンパク量がほとんど消失した。他の毛細胆管膜たんぱく質であるDPPIVは影響を受けなかった。この時、APNのたんぱく質安定性をウエスタン解析によって調べると、APNをノックダウンした細胞のほうにおいて、速やかにMRP2のタンパク質が消失するのを確認した。これらの結果は、APNはMRP2のユビキチン化を調節してMRP2たんぱく質を安定にする働きがあることを示している。このようなたんぱく質の安定性やユビキチン化は様々なシグナル因子により制御されている。そこで、MRP2のタンパク安定性に関わるシグナル因子を明らかにするため、初代胎児肝細胞培養におけるシグナル因子の状態をウエスタン解析により調べた。その結果、APNをノックダウンした細胞において、Aktのリン酸化が著しく阻害されていた。Aktたんぱく質量には変化がなかった。Aktのドミナントネガティブ(阻害体)をこの培養系にレトロウイルスにより導入すると、それだけでMRP2のタンパク質が消失した。mRNAやDPPIVには影響がなかった。この結果から、MRP2たんぱく質が安定に存在するためにはAktのリン酸化が必要であり、APNはAktのリン酸化を介してMRP2たんぱく質の安定性を増しているといえる。