Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
多くの動物は左右非対称な内臓をもつ。内臓にみる初期発生の左右極性(一次左右性)が反転した動物は、一般に進化していない。巻貝では、一次左右性の極性が反転した鏡像系統がくり返し進化した。しかし、巻貝の鏡像系統はまれであり、鏡像体の進化はあきらかに抑制されている。発生拘束仮説は、左右反転が発生を異常にするから、左巻が進化しにくいと説明する。オナジマイマイのラセミ変異を用い、この発生拘束仮説を検証した。ラセミ変異のホモ接合体が産む卵塊からは、右巻と左巻が孵化する。しかし、ほとんどの卵塊で右巻が左巻より多く孵化する。この原因は、右巻予定卵が左巻予定卵より多く生まれるからか、または、左巻予定胚が死にやすいから、のどちらかである。前者なら、発生の左右反転は、艀化までの生存率とは無関係であることになる。一方、右巻と左巻の兄弟姉妹は、両親由来のゲノムと母親由来の細胞質を共有する。ゆえに、もし左巻のほうが死にやすいなら、左右逆の発生それ自体が艀化率を低下させることを意味する。ゆえに、発生拘束仮説を支持する。8細胞期の大割球と小割球のずれ(らせん度)の方向と角度を測定した結果、らせん度は正規分布し、ほぼ同数の胚が右型と左型に螺旋卵割することがわかった。したがって、ラセミ変異体のらせん卵割は、ゆらぎ左右性(fluctuating asymmetry)を示す。らせん度と孵化率には正の相関があり、らせん度が同じなら艀化率は左巻のほうが低かった。これらの結果は、ラセミ変異卵は、左右極性が偶然に決まるにもかかわらず、左型に発生すると艀花率が低下することを示す。すなわち、左右逆に発生するだけで発生が異常になることがあきらかである。これは、動物界の反鏡像ルールを説明しうる発生拘束の証拠である