研究概要 |
(1)キラートキシン耐性遺伝子(HKR1)の構造の決定:本遺伝子は酵母サッカロミセス・セレヴィシアエのゲノム上にシングルコピーで存在し,5406塩基対からなる。HKR1の産物は1802残基のアミノ酸,分子量189KDaのタンパク質と考えられる。推定アミノ酸配列からN末端側にはシグナル配列,C末端側には膜貫通領域と考えられる疎水性の高い配列が認められた。また本タンパク質は,8箇所のアスパラギン結合型糖鎖付加部位を有している。 (2)HKR1の機能の検討:HKR1の全長及びC末端側の配列をガラクトースにより誘導されるプロモーター,GAL1あるいはGAL7の下流につないで誘導発現を行いキラートキシンに対する耐性の変化を調べた。キラートキシン耐性効果にはC末端側の配列が機能していることが示された。 (3)HKR1C末端側の欠損変異株の機能の解析:HKR1遺伝子のC末端側の膜貫通領域を含むカルシウム結合ドメインを欠損させたHKR1部分変異株を作成し,野性株との性質の比較を行なった。β1, 3-グルカン合成酵素活性は野性株に比較して変異株はその3分の1に低下していた。一方キチン合成酵素活性は両者に違いは認められなかった。さらに,酵母細胞壁骨格β-グルカンの含量もHKR1の部分破壊により減少した。野性株とHKR1部分破壊株の細胞壁をカルコフラワーを用いて蛍光染色し,キチンを特異的に染色して出芽部位の変化を観察した結果,野性株は極性をもったアクシャル型の出芽様式を示したのに対して,変異株はランダムな出芽様式を示した。 以上の結果より,キラートキシン耐性遺伝子の示す機能は,細胞壁骨格を形成するβ-グルカンの合成の制御及び,出芽の極性を支配するものと考えられる。
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