研究概要 |
種数g>1の向き付け可能な閉曲面Σの3次元有界コホモロジーをH^3_b(Σ;R)とおく.研究代表者は,S.Matsumoto-S.Moritaの結果(1985年)を利用して,H^3_b(Σ;R)上の擬ノルム||・||がノルムではないことを示した.さらに,同様の議論をすることによって,5以上の任意の次元の有界コホモロジーで,その擬ノルムがノルムでないような例が構成した.この結果は,3次元以上の有界コホモロジーではノルムではない擬ノルムが存在することを示した最初の例である. Xを位相空間とするとき,そのk-次有界コホモロジーH^k_b(X;R)の元で擬ノルムが零であるもの全体の作るR-部分ベクトル空間をH^k_b(X;R)の零ノルム部分空間といい,N^k(X)で表すことにする.本研究では,3次零ノルム部分空間N^3(Σ)を調べた.研究代表者はΣ×R上の双曲計量と特異ユークリッド計量の両方を使うことによって,N^3(Σ)の非自明な元を具体的に構成した.ここで使われる,ユークリッド計量はΣ上の擬Anosov自己同型に同伴する測地的葉層構造を利用して定義されるものである.この具体的な構成法の応用として,N^3(Σ)が連続濃度次元のベクトル空間であることも証明できた. 有界コホモロジーの研究を通じて,研究代表者は双曲3-単体からなる複体のマイクロチップ分解という概念を得た.後に,その概念が3次元多様体間の写像の研究にも有効であることを明らかになった.とくに,3次元多様体Mから双曲多様体Nへのdeg(f)≠0の写像f:M→Nが与えられているとき,Nの双曲構造を利用して,M上に双曲3-単体からなる複体の構造が定義できる.この複体のマイクロチップ分解を利用して,Mからの非零次数の写像を許すような双曲3次元閉多様体はたかだか有限個であることを示した.
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