研究概要 |
視交叉上核は生物時計の中枢であり,そこで,身体のすべてのリズムがコントロールされている.視交叉上核は両側性の小さな神経核で,片側10,000個ほどの神経細胞とそれに匹敵するグリア細胞からできている.これらの細胞は協調して神経活動に24時間周期を示す.その原因は視交叉上核の細胞に発現している遺伝子が関係していることがわかってきた.これら,10個ほどの時計遺伝子が24時間周期の生成に関与していて,ある遺伝子の発現が数時間の時間遅れで,別の遺伝子の発現を促進し,それが再び自分自身の発現を抑制するというようなフィードバック機構が存在していると予想されている. 我々は時計遺伝子の一つであるPer1遺伝子のアンチセンスオリゴ核酸をラットの視交叉上核に投与して,それが,光に対する応答を抑制することを発見した.Per1アンチセンスオリゴ核酸単独の投与では位相を動かすことは観察されなかった.さらにPer1遺伝子が過剰発現するラットを用いて,行動と視交叉上核における時計遺伝子の発現リズムを検索し,この動物では周期が延長し,明暗周期に材する同調が障害されていることを発見した.Per1遺伝子は予想通り一日中強く発現し,Per1遺伝子はワイルドの半分程度に抑制されていた.他の時計遺伝子はほぼ正常に発現していた.これらの事実はPer1遺伝子が生物時計のリズム生成機構の本体に組み込まれているだけではなく,光の入力を受けるところでも働いていることを示唆している.
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