研究概要 |
共役リノール酸(CLA)は乳製品や反芻動物の肉に存在するリノール酸の位置・幾何異性体である。CLAは抗肥満、抗動脈硬化及び抗癌などの健康改善作用を持つことが最近の動物実験及びヒトを用いた研究において報告されている。しかし、各CLA異性体の生理機能の違いが体脂肪量や脂質代謝に及ぼす影響については知られていない。本研究では、肥満モデル動物OLETFラットを用いて、主要CLAである9cis,11trans-CLA(9c,11t-CLA)と10trans,12cis-CLA(10t,12c-CLA)の脂質代謝に及ぼす影響と体脂肪低下作用のメカニズムについて検討した。まず、CLA混合物の影響について検討した結果、CLAは高脂血症を改善し、内臓脂肪の蓄積を抑制することが認められた。その機序としては筋肉、白色脂肪組織、褐色脂肪組織及び肝臓での脂肪酸β酸化の亢進及びエネルギー産生増加が関与していることが認められた。次に、9c,11t-CLA食または10t,12c-CLA食をOLETFラットに2週間与えたところ、対照食(リノール酸)に比べて、10t,12c-CLA食のみが内臓脂肪重量、血清及び肝臓トリグリセリド濃度を有意に低下させることを認めた。10t,12c-CLAの作用メカニズムとしては、肝臓の脂肪酸合成の抑制および脂肪酸のβ酸化の亢進が示された。デルタ9不飽和化酵素の阻害も脂肪酸組成および酵素レベルで明らかにした。また、これらの作用は遺伝子発現レベルでも認めた。したがって、遺伝子発現が酵素活性を制御している可能性が示された。さらに、CLAによって、脂質代謝酵素遺伝子発現に関係する核内調節因子SREBP1cmRNA発現量も制御されることを明らかにした。さらに、9c,11t-CLA及び10t,12c-CLAのエネルギー代謝に及ぼす影響を呼吸測定法で検討した結果、10t,12c-CLAは短期間投与でエネルギー産生を増加させることを示した。また、血圧上昇の抑制作用を持つことも見出された。 本研究において、CLAが示す抗高脂血症および抗肥満作用は10t,12c-CLA異性体の作用によるものであることを示し、高血圧症の予防改善作用をもつことをはじめて明らかにした。
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