研究概要 |
ロタウイルス下痢症の発病防御にはG血清型特異的免疫の獲得が重要である。従来ロタウイルスの血清型はG1^〜G4が主体を占めていたが,最近G8やG9の出現が見られ,とくにG9ロタウイルスは世界的に急激な広がり,その相対出現頻度は約6%におよんでいる。本研究では,わが国で初めて発見されたG8ヒトロタウイルスおよび最近分離したG9ロタウイルス株のVP7遺伝子と全ゲノムレベルでの相互関係を明らかにし,その出現の機序を解明することを目的とした。 解析に用いたロタウイルス株は,1994年の便検体から分離されたG8ヒトロタウイルス株AU109,アフリカのマラウイ共和国で分離されたG8ヒトロタウイルス株,米国,インドおよび日本で分離されたWI61,AU32,116E,95H115,US1205などの血清型G9のヒトロタウイルス株である。ウイルス株の培養,精製,RT-PCRによる増幅,塩基配列の決定RNA-RNA hybridizationなどはすべて標準的な方法によった。 AU109は遺伝子全体の構成はDS-1 genogroupに属するヒトロタウイルスであった。世界的に急激な広がりをみせているG9ヒトロタウイルス株のVP7遺伝子の配列は非常によく保存されており,すべて系統3に属する。しかし,この系統3からすこしずれのある分離株も米国(Om67)および日本(K1)で見つかった。この結果は,世界的に急増したG9ヒトロタウイルス株はP血清型,亜群,electropherotypeなどの多様性にかかわらず,単一の起源であるとする説を支持する。RNA-RNA hybridizationの結果から,単一起源のG9・VP7遺伝子分節が頻繁なreassortmentによりさまざまな遺伝的backgroundをもつヒトロタウイルス株に入りこんだことを示唆している。G8ロタウイルスであるAU109もDS-1 genogroupのウイルスがG8VP7遺伝子を獲得してできたreassertantと考えられた。Reassortmentは新型の血清型の出現機序として注目することが重要である。
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