研究概要 |
本研究では,現在の氷河・氷床周辺で起きている地形・堆積物形成プロセスを観察・観測・記載し,その成果を,日高山脈に残されている過去の氷河地形・堆積物に適用することを試みた.その主な注目点は以下の3点である. 1)堆積物の構造解析と山頂部の気象観測によって氷河・周氷河プロセスを明らかにすること 2)示標テフラを用いて第四紀後期の氷河変動を正確に編年すること 3)火山活動との関連性を探ること 氷河地形・堆積物・示標テフラの精査として,日高山脈トッタベツ川流域を対象として現地調査を行なった.渓流部では,氷河地形の記載・マッピング,および氷河底由来の椎積物の記載と構造解析試料の採取を行った.平野部では,降下火山灰の採取を行い,渓流部では同定が困難な示標テフラの同定および層序と年代を決定した.さらに,北海道日高山脈の氷期の氷河拡大時期を他の日本列島山岳地域と対比するため,北アルプスにおいて現地調査を実施した.また,スイスやカナダの研究者と山岳氷河や凍土に関する情報交換ならびに議論を行った. 野外で採取した氷成堆積物試料を用いて,薄片の作成ならびに記載・解析を行った結果,過去の氷河の物理状態として,氷河底の可塑性堆積物と,さらにその下にある凍結層の存在が示唆された.平野部で降下火山灰を同定したことによって,一定の示標基準を確立した.このことによって,渓流部でも同様の火山灰を用いて氷河作用の精密な編年が可能になったものと考えられる.これらに加えて,日高山脈北部の山頂部において,初めての通年気温・地温データの取得に成功した.特に,地温のデータ解析を行った結果,カール壁・カール底における山岳永久凍土および風穴現象の存在を確認できた.こうしたデータは,氷河の発達に関連する気候条件および周氷河環境を明らかにする上で非常に重要であるとともに,気候観測データにもとづいて過去の氷河・永久凍土の形成環境を復元する上でも,今後の議論に有用なものとなると考えられる.
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