研究概要 |
企業間ネットワークにおける信頼形成過程に対する参照モデルを構築するための準備作業を展開してきた。このとき、M.ポラニーの主張するような「研究室の伝統」という意味での「暗黙知」,あるいはサッチマンに代表される「状況的認知」の視点から,複数のアクターが織りなすハイブリッド(異種混合体)のネットワークの協働行為(実践)に注目することにした。そして,そのような実践を通じた「新しい手続きの蓄積」すなわち「実践を通じた学習」に着目することで,企業間ネットワークにおける戦略策定過程に対する独自の参照モデルを構築するための理論基盤を整備してきた。近年の経営戦略研究におけるキーワードの一つである「実践」に注目することで,より実践的な参照モデルの構築が可能になると考えたからである。なお,本研究でいう「実践を通じた学習」とは,現場の意思決定ないし問題解決を通じて,ある新規手続きが「手続き的記憶」として組織記憶として残り,結果的に,新たな行動レパートリーが浸透する場合を指している。そして,予備的考察を通じて,組織間ネットワークにおけるコンテクストと信頼構造こそが,あるルーティンが組織記憶として蓄積され浸透するか否かの試金石に他ならない,という仮説を抽出するとともに、企業のみならず地域社会を取り巻く多様なアクターによるコンテクスト創造に関する事例を分析することができた。そこでは,行為主体のネットワークが織りなす「意図せざる結果」の中で,既存の事象や概念の意味転換(翻訳過程)を通じて,より求心力の強い信頼性が醸成される過程を明らかにした上で,ネットワークにおける意味創造(転換)メカニズムに,歴史性(経路依存性とコミットメント)や地域性(ドミナントロジック)が深く関わっている点について,事例を通じて明らかにした。
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