研究課題/領域番号 |
20K00931
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03010:史学一般関連
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研究機関 | 公益財団法人元興寺文化財研究所 |
研究代表者 |
木沢 直子 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (50270773)
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研究分担者 |
小村 眞理 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (10261215)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 古代中世東アジア / 服装文化 / 冠り物 / 冠帽 / 図像資料 / 文献史料 / 頭部の装い / 髪型 / 身分表象 / 地域間交流 / 服装 / 櫛 |
研究開始時の研究の概要 |
本課題で対象とする9世紀~16世紀(古代末葉~中世)は、日本列島を含めた東アジアにおいて、海を介した交流が盛んに行われていたことが知られている。人々の移動に伴い物品や素材、技術など様々な事物が往来したと考えられる当該期に、韓半島および中国大陸の服装文化が日本列島における人々の服装に対して与えた影響はどのようなものであったか。この問いについて、特に頭部の装い(髪型、装身具、冠り物)に着目し、出土資料および文献史料、図像資料から検証を行う。また、日本列島および中国大陸、韓半島における装いの変遷を把握し、交流による地域間の相互作用を検証する。
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研究実績の概要 |
日本列島は四方を海に囲まれた環境から、古来周辺地域との海を介した人・物の往来があったことが知られている。それに伴う様々な技術や知識等の日本列島への伝来と、既存文化への影響はこれまでも指摘されており、本研究で課題とする服装もまた、この例外ではなかったことが想定される。 本研究の目的は、古代から中世における日本列島の人々の服装の変遷を整理するとともに、東アジア地域における地域間交流が日本列島を含む各地域の服装文化に与えた影響を検証し、服装文化形成の基層にアプローチすることにある。特に、頭部の装いを構成する笄や冠り物、髪型の変遷に着目し、日本が影響を受けたと考えられる朝鮮半島と中国大陸の様相との比較を行う。 令和4年度は、日本列島と朝鮮半島、中国大陸に残る絵画や俑等の図像資料を中心に、冠り物と髪型に関する情報を整理した。特徴的な資料については、トレース等の図化作業を通して形状や構造を検討した。特に着目したのは、上記の地域における6世紀~8世紀の資料である。すでに知られているように、日本列島において冠り物(冠帽等)の装着が確認される時期は、中国および朝鮮半島と比較すると遅れる。『隋書』倭国伝(7世紀代)には、隋代に至り倭の王がはじめて冠の制度を定めたことが記されており、頭部に何らかの冠り物を着けた記録としてはこれが初出となる。続く『旧唐書』(9世紀~10世紀代成立)、『新唐書』(10世紀~11世紀成立)にも関連記事があり、両史料には貴人が錦の帽を被り、百姓は椎髻で冠は無く、婦人は後ろに結髪するとある。こうした記述内容について、法隆寺金堂人物画落書(7世紀)、正倉院文書写経所帳簿反古紙人物戯画(8世紀)、高松塚古墳壁画人物像(7世紀末様~8世紀初頭)等に見える冠り物(ぼく頭)の図像を解析することで、より具体的な形状と構造の復元を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和3年度と同様に、令和4年度も当初計画した国外での現地調査は難しい状況であった。そのため中国と韓国で予定していた現地調査に代えて、調査対象とする資料に関する書籍および参考文献からの情報収集を中心に行った。 特に7世紀~8世紀に位置づけられる中国唐代墓の壁画に着目し、ぼく頭を冠する人物像を図化することで、それらの形状と構造を検討した。このうち、唐蘇思墓と唐李賢墓(7世紀後半~8世紀中頃)に見える冠り物を観察した結果、ここに描かれるぼく頭はいずれも後頭部から前頭部にかけて布状の端部を回して結び合わせ、前頭部中央に結び目が位置することが分かった。また、こうした形状は、日本列島における初現期の冠り物(冠帽など)装着図像である法隆寺金堂人物画落書や正倉院文書写経所帳簿反古紙人物戯画等と共通する特徴であることを確認した。 さらに、これらの図像に見える表現からは、ぼく頭が柔らかい質感を有しており、織物状の素材であった可能性が想定された。そこで、冠り物の素材にも関する資料についても調査対象を広げて情報収集を行うなかで、当初認識できていなかった冠り物(奈良時代のぼく頭)の出土資料が、国内で確認されていることが判明した。いずれも断片ではあるが、漆が塗布されており、観察方法によっては織りや縫製技術、材質を知りうる手掛かりとなる可能性がある。こうした実物資料の観察は本研究において必要な作業であり、研究期間を延長して令和5度に追加調査を実施したうえで、それらの成果も含めて最終報告を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度に新たに確認した冠り物の国内出土資料について、追加調査を行う予定である。主な調査対象として奈良市史跡大安寺旧境内出土漆紗冠、奈良市平城京右京八条一坊十三・十四坪出土漆紗冠、京都府木津川市西山古墓出土漆紗冠等を予定している。これらはいずれも8世紀~9世紀に比定され、断片の状態で遺存している。調査は、資料を保管する各機関に赴き現地で実施する予定である。この際、研究代表者の所属機関(公益財団法人元興寺文化財研究所)が所有する実体顕微鏡のほか、微細な部分を確認するために光学顕微鏡を用いて観察する。光学顕微鏡については、調査地に持参可能な可搬型を購入する予定である。これら一連の調査により、文献史料や図像資料では詳細が不明であった冠り物の材質や製作技法を明らかにする。さらに、これまでに収集し出土資料や図像資料との比較検討を行う。 以上、追加した調査成果を踏まえたうえで、これまでに収集した中国および朝鮮半島、日本列島の図像資料と文献史料の調査結果を合わせて総括する。最終的に、本研究の課題である日本列島、中国大陸、朝鮮半島における服装の変遷および、それらの伝播と背景について考察し、研究成果報告書を作成する。
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