研究課題/領域番号 |
20K06095
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分39060:生物資源保全学関連
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
篠原 明男 宮崎大学, フロンティア科学総合研究センター, 准教授 (50336294)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 腸内細菌 / マイクロバイオーム / 真無盲腸目 / 抗生物質 / ディスバイオーシス / 野生動物 / 絶滅危惧 / ディスバイオシス |
研究開始時の研究の概要 |
ヒトにおける腸内細菌叢の重要性が明らかにされた現在、野生哺乳類においてもその重要性が共有されつつある。特に絶滅危惧種の救護や保全においては、腸内細菌叢も同時に保全することの重要性に対する認識が広がりつつある。しかしながら、多様な野生哺乳類の腸内細菌叢は未知な部分が多く、腸内細菌叢が乱れてしまった場合の対策もない。その一方で近年、哺乳類における腸内細菌の水平伝搬を担う機構として、食糞行動が再注目され始めた。 本研究では日本においては絶滅危惧種の多い小型哺乳類の腸内細菌叢を広く明らかにすると共に、小型哺乳類の食糞行動様式ごとに、腸内細菌叢が撹乱された際の回復方法を構築することを目的とする。
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研究実績の概要 |
本研究では食糞様式(①糞を肛門から直接に食べる、②落ちている糞を拾い食いする、③食糞をしない)に着目し、その腸内細菌叢の構成と、ディスバイオシスからの回復方法の構築を試みる。コロナ禍のため、これまでは野生由来バイオリソースを利用して、①および②の食糞を行う小型哺乳類をターゲットとした実験を実施してきた。2022年度はフィールド調査を再開し、③食糞をしない小型哺乳類を捕獲し、その腸内細菌叢を明らかにした。 新規に捕獲した個体および過去に保存していたサンプルを材料として、コウベモグラ8個体、スンクス(ジャコウネズミ)7個体、ワタセジネズミ3個体、ヒミズ3個体、サドモグラ2個体、エチゴモグラ2個を用いた。これら食糞をしない小型哺乳類の腸内細菌叢は殆ど知られていないことから、採取できた消化管内容物について、上部消化管、下部消化管、胃といった部位毎に解析を行った。また対照群としてマウスの消化管内容物を用いた。その結果、これら6種の腸内細菌叢は全部位を通じてFirmicutes門とProteobacteria門が多数を占めた。興味深いことに、これら6種のうち4種ではBacteroidetes門が検出されず、Bacteroidetes門が検出されたサドモグラおよびスンクスでも、その割合は極めて少なかった。同条件下で実験を行ったICRマウスの腸内細菌叢にはBacteroidetes門が42.42%±3.98%検出された。従って、これら食糞をしない小型哺乳類の腸内細菌叢はFirmicutes門とProteobacteria門が優勢で、Bacteroidetes門が存在しない、もしくは極めて少ないという特徴を持つことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020-2021年度は新型コロナウイルス感染拡大防止を考慮して野外調査を断念した。しかしながら当初研究計画の順番を変更し、本研究室で保持する野生由来バイオリソースを活用して研究を遂行してきた。その結果、ディスバイオシスモデルの構築、ディスバイオシスからの腸内細菌叢の回復方法に関する実験を順調に遂行し、成果を得た。その一方で、研究代表者の保持してきた野生動物のサンプル等を用いて食糞行動様式の異なる分類群の腸内細菌叢を明らかにしてきた。2022年度はフィールド調査を再開し、野外にて新たなサンプリングを実施した。その結果、小型哺乳類の異なる食糞行動様式(①糞を肛門から直接に食べる、②落ちている糞を拾い食いする、③食糞をしない)毎の腸内細菌叢を明らかにすることが出来た。 環境省の定めるレッドリスト2019年度版には、絶滅危惧種および準絶滅危惧種をあわせて51種の哺乳類が掲載されている。そのうち17種が齧歯類と食虫類であり、小型哺乳類の保全は重要である。小型哺乳類におけるディスバイオシスからの回復方法の構築は、その様な観点からも重要であるが、多くの種の健康な状態における腸内細菌叢を記載することも基礎データとして重要となる。研究計画立案時より、絶滅危惧種を含めた多様な種の腸内細菌叢を明らかにすることを目的として含めていたが、2022年度は環境省の定める準絶滅危惧種であるサドモグラ、絶滅危惧IB類となるエチゴモグラの腸内細菌叢も解析をすることが出来た。本研究により、ハムスター類、アカネズミ類、ハタネズミ類、そしてモグラ類、ヒミズ類、トガリネズミ類と多くの小型哺乳類の腸内細菌叢を明らかにすることが出来ており、研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は糞を肛門から直接に食べ、なおかつ食糞頻度が極めて高い種としてハムスター類を、2021年度は糞を肛門から直接に食べるが食糞頻度が極めて低い種としてハタネズミ類の腸内細菌叢を明らかにした。2022年度は食糞をしない種として真無盲腸目の種の腸内細菌叢を明らかにした。さらに2021年度に糞の拾い食いをするアカネズミ類を用いて、ディスバイオシスモデルの作出およびディスバイオシスからの回復方法を構築した。その結果、食糞を介した方法だけでなく、新鮮な糞便をスラリー状にして毛皮へ塗布する方法によっても、ディスバイオシスから腸内細菌叢を回復させることが出来た。野生動物におけるディスバイオシスからの回復方法として食糞行動だけでなく毛繕い行動を利用できる可能性が見いだされた。本手法は、糞を拾い食いしなくても適用可能なことから、より広い種に応用することが期待出来る。2024年度は、これらのデータを統括し、成果発表に努める。 その一方で、近年、糞の拾い食いに関する新たな知見が集積されつつある。これまで本研究では、小型哺乳類の食糞行動を①糞を肛門から直接に食べる、②落ちている糞を拾い食いする、③食糞をしない、の3群に分けて実験を実施してきた。しかしながら、①の種が拾い食いもすることも明らかとなった。そのためディスバイオシスからの、食糞を介した腸内細菌叢の伝達方法を用いた回復は、もう少し広い種に適応可能であるとも考えられた。そこで2023年度はデータ整理および成果発表を行いつつ、糞を肛門から直接に食べる種の行動を連続ビデオ撮影し、その行動様式を再検証することも実施する。
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