研究課題/領域番号 |
20K15141
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分28040:ナノバイオサイエンス関連
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井上 大介 九州大学, 芸術工学研究院, 助教 (40869765)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
|
キーワード | 無細胞タンパク質発現系 / 合成生物学 / 細胞骨格 / 生体分子モーター / ナノテクノロジー / 無細胞タンパク質発現 / 微小管 / キネシン / DNAナノテクノロジー / 分子機械 |
研究開始時の研究の概要 |
生体システムを構成する多くのタンパク質は、超小型で優れた機能を有することから、マイクロ・ナノデバイスの材料として期待されている。しかし、タンパク質は熱や乾燥などに弱く、タンパク質で構築したデバイスは長期保存や輸送ができない。一方、DNAは極めて安定であると共に、タンパク質の情報記録分子である。本研究では、タンパク質(生体分子モーター系)をコードした遺伝子をもつDNAをガラス基板上にプリントすることで、デバイス構成に必要な情報を基板上にプレ-プログラミングし、長期保存することを可能にする。基板表面でタンパク質を発現させ、タンパク質間の相互作用による自己集積を利用し、デバイスの構築技術を確立する。
|
研究実績の概要 |
本研究では、タンパク質遺伝子をコードしたDNAをガラス基板上にプリントすることで、タンパク質マイクロデバイスの構築に必要な情報を基板上にプレ-プログラミングし、長期保存することを可能にする。基板上でタンパク質を発現させ、タンパク質間の相互作用による自己集積を利用し、マイクロ・ナノデバイスの構築技術を確立する。 昨年度まで、キネシンおよびミオシン生体分子モーターの無細胞タンパク質発現に成功し、運動活性があることも確認できた。さらに、DNAをガラス基板に固定する手法も確立し、本研究の目的であるガラス基板上でのタンパク質発現にも成功した。しかしながら、詳細な評価により、合成した生体分子モーターの運動活性が、従来の遺伝子組み換え生物を用いて発現させたものよりも低いことが判明した。そこで、本年度はデバイスの動力タンパク質であるキネシンおよびミオシン生体分子モーターの運動活性を向上することを試みた。合成したキネシンに関しては、使用するバッファー組成を検討することで、その運動活性を10倍程度に向上することができた。さらに、大腸菌発現したキネシンとの詳細な比較により、合成したキネシンは、大腸菌発現したキネシンよりも微小管(キネシンと相補的に結合する細胞骨格繊維)との結合親和性が高いことや、失活したキネシンの量が少なくなることを明らかとした。 他方、ミオシンは、合成時に適切なシャペロンを用いることで、持続的な運動が得られるようになった。今回使用したミオシンVIは、フォールディングに必要なシャペロンが未同定であったが、本研究により、主要なシャペロンを突き止めることができた。すなわち、このことは従来の遺伝子組み換え生物から精製したものと同等の性能をもつミオシンVIを試験管内合成する技術を世界で初めて確立したということを意味する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すでに前年度までに、本研究の基盤技術であるガラス基板への遺伝子テンプレートの固定化および同基板上でのタンパク質発現技術の確立については達成済みであり、進捗は順調である。 前年度に合成したミオシンを使い、相補的細胞骨格であるアクチンの運動活性を詳細に評価したところ、合成ミオシン基板上では持続的に並進運動するアクチン細胞骨格の割合が低く、またその運動速度も遅いことが見出された。これは合成ミオシンの運動活性の低さに起因する。そこで、本年度は、当初の計画に加えて、ミオシンの運動活性の改善を試みた。 合成ミオシンの低運動活性は、その立体構造のフォールディングに問題があると推測した。しかし、本研究で合成したミオシンVIはフォールディングに必要なシャペロンが未同定であり、他のミオシンスーパーファミリータンパク質のシャペロンを参考にし、ミオシンVIのフォールディングに必要なシャペロンを同定した。このことにより、アクチン細胞骨格の持続的な並進運動の発現に成功した。 他方、初年度に合成したキネシン生体分子モーターも、運動速度が従来の遺伝子組み換え大腸菌から精製したキネシンよりも遅いことが問題であったが、バッファー組成を検討することで改善することができた。また、大腸菌から精製した従来型キネシンと比較して、合成キネシンは、微小管との結合親和性が高いこと、運動の活性が高いことも新たに発見することができた。本成果を総括した論文はACS Synthetic Biology誌に採択されている。 これらより、本年度は合成した生体分子モーターの運動活性の向上を達成することができた。本研究により、合成生体分子モーターは従来型のものと同等、またはそれ以上の性能をもつことが明らかになり、将来的に本システムにより構築するデバイスの性能を向上できる可能性が示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までに、すでに本研究の目的の大部分を達成している。しかし、ガラス基板上にプリントしたDNAからアクチン細胞骨格およびミオシンを共発現させる実験については未着手であるため、それぞれの遺伝子をコードするDNAを同一基板上に固定し、基板上で共発現させることを試みる予定である。アクチン細胞骨格に関しては、合成系はすでに確立しており、蛍光顕微鏡で可視化するため、蛍光タンパク質を融合したアクチンを合成する。各構成要素を同時に基板上で発現することで、ミオシンとアクチン細胞骨格からなる、デバイスが自己組織的に構築されるのか否か検討する。また、DNAをプリントした基板を常温または低温環境下において長期間保存し、保存後もタンパク質を合成できるのかどうか確認する。 また、前年度から開始したミオシン生体分子モーターの無細胞タンパク質発現についても総括し、論文にまとめる。ミオシン生体分子モーターには、アクチン細胞骨格上を動く方向から、巡行性と逆行性のものに大別することができ、本研究で合成したミオシンVIは逆行性のモーターである。タンパク質デバイスのデザインの多様性を高めるため、ミオシンVIに加え、その他の巡行性ミオシンについても無細胞タンパク質合成に挑戦する予定である。
|