研究課題
若手研究
量子統計力学は,熱力学に支配されるマクロな物質の性質を,量子論に支配されるミクロな電子や分子が多数集まった集団の統計的性質として理解することを目指す物理学の一分野である.本研究では,20世紀初頭から中葉にかけてのその発展過程を,とくに「研究と教育」の相互作用という観点から理解することを目指した.その結果,研究論文レベルで発案された計算手法(たとえば分配関数)が教科書に取り込まれ,さらにこの教科書がその後の研究を駆動していく際の参照源となる過程を明らかにした.
科学史
研究と教育の相互作用は近年の科学史で話題となるテーマであり,その相互作用が観察される場としてしばしば教科書が注目される.本研究によれば,教科書という媒体は,既存の成果を整理して論理的に分かりやすくまとめるだけのものではなく,それに続く研究者たちにとってのマニュアルとして,さらなる研究の源となる.それゆえ,研究だけでなく,教科書の執筆という教育にかかわる事柄にも,十分な意義が認められて然るべきである.本研究ではそのことを,量子統計力学の発展という事例に即して明らかにした.