研究成果の概要 |
古環境の復元において重要な酸化還元プロキシであるクロム同位体比に焦点を当て, 海洋堆積物内に保存されたクロム同位体比が過去の酸化の程度を示唆するという仮説に基づいて, 「陸域から海洋へのクロム同位体比の保存性」を検証した. 具体的には, 高知県の二つの河川においてクロム濃度, 化学種, 同位体比の変動を調査した. その結果, 淡水域では六価クロムが還元され, 汽水域では海水との混合や河床堆積物からの放出により同位体比が大きく変化することが明らかとなった. 陸域から海洋へのクロム同位体比の保存性については, さらなる研究が必要であるが, 本研究の成果から河床堆積物の影響評価の重要性が示唆された.
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研究成果の学術的意義や社会的意義 |
本研究において存在が示唆されたクロムの溶存有機錯体は, 地球表層におけるクロムの物質循環の議論において, 未だ情報が少なく空白となっている領域である. 本研究で開発した有機-無機の化学種一斉分析法を発展させることで, その生成機構や環境条件の理解が深まることが期待される. また, これらの情報の拡充により, 陸域から海洋間のクロム同位体比の保存性に関するより良い制約が得られ, 堆積岩中のクロム同位体比から表層の酸化還元環境の変遷を復元することが可能となり, 縞状鉄鉱床などの表層大気の進化に伴い形成された金属鉱床の新規発見など, 資源開発の発展にもつながる可能性がある.
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