研究概要 |
表面スピン系の低次元系固有のゆらぎと観測によるその摂動は,表面上の量子構造を用いた次世代機能性材料の分解能を決定づける重要な性質である.本研究では,独自の着想で提唱してきたスピン偏極原子と表面の散乱素過程におけるスピン選択的な共鳴電荷交換の機構の考察をさらに進め,これを通して表面第一原子層および吸着原子のスピン相関を解明するために,実験技術の開発と評価技術の原理的研究を行うと同時に,Ni, GaAs/GaAsP/Siの光励起スピン注入,希ガス単結晶薄膜,スピンクラスター,生体試料DNAなど,さまざまな標的試料の予備実験を行った. スピン偏極原子と表面の散乱基礎過程における共鳴電荷交換の確率は,表面のスピン状態密度と,原子の相対的ポテンシャルを反映する.本研究では,基底状態で電子および原子核が完全にスピン偏極したCs原子線を用いた.周波数安定化円偏光レーザーによる光ポンピングによって,プローブ原子は熱エネルギーでは100%のスピン偏極度が達成されているが,本研究ではエネルギー領域を0.1-10keVに拡張し,それぞれのエネルギー領域に適した光ポンピングレーザー系の改良を行うとともに,共鳴電荷交換のスピン依存性・エネルギー依存性を明らかにするための荷電状態検出技術と,散乱後のスピン減偏極度を測定するための2光子共鳴イオン化分光技術を確立した. さらに本研究をナノ領域の表面スピン計測につなげるために,光近接場と表面の相互作用における疑角運動量の保存の実験および理論研究を同時に進行し,.表面近傍での光ポンピングスピン偏極を可能にする方法のひとつとして,垂直な伝搬ベクトルをもつ横電場エバネッセント波の重ね合せにより発生する,局所的な円偏光に相当する回転電場のストライプ構造を,微小球プローブおよび金属コート先鋭化光ファイバープローブと,冷却CCDカメラを利用した超光感度偏光検出器を開発することにより成功し,散乱理論との完全な一致が示された.
|