研究分担者 |
大槻 美佳 北海道大学, 保健科学研究院, 准教授 (10372880)
生田目 美紀 京都女子大学, 家政学部, 教授 (20320624)
秋田 喜美 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (20624208)
佐治 伸郎 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授(テニュアトラック) (50725976)
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配分額 *注記 |
44,590千円 (直接経費: 34,300千円、間接経費: 10,290千円)
2024年度: 10,140千円 (直接経費: 7,800千円、間接経費: 2,340千円)
2023年度: 8,190千円 (直接経費: 6,300千円、間接経費: 1,890千円)
2022年度: 8,190千円 (直接経費: 6,300千円、間接経費: 1,890千円)
2021年度: 8,320千円 (直接経費: 6,400千円、間接経費: 1,920千円)
2020年度: 9,750千円 (直接経費: 7,500千円、間接経費: 2,250千円)
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研究開始時の研究の概要 |
子どもは乳児期から複数の感覚を脳内で対応づけ統合することができ,音象徴などの類像性が言語習得初期に重要であるという音象徴ブートストラッピング仮説(Imai & Kita, 2014)が支持されている.他方で,身体性オノマトペでも,個別言語の音韻体系に大きく制約された恣意性をもつ.このことは,身体に接地しながらどのように記号の抽象化が進み,子どもが言語習得の過程でどのように抽象的な概念を身体化していくのかという問いが重要であることを示す.この問題を解明するために,音象徴の進化の過程に焦点をあて,生物学的要因を基盤とする類像性が文化的,言語学的な要因とどのように相互作用するのかを明らかにする.
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研究実績の概要 |
語彙習得の問題に関して近年注目されているのが身体性と類像性(iconicity)の役割である.類像性とは,形式と意味の間に感じられる類似性と定義される(Peirce, 1932).子どもは言語学習がはじまる以前の乳児期から視覚,聴覚,触覚などの異感覚を脳内で対応づけ,統合することができ,音象徴(「タケテ」が尖った図形と結びつくように,音と意味が偶然を越えた関係を持つ現象)やジェスチャーに代表される類像性が言語習得初期に非常に重要であるという音象徴ブートストラッピング仮説(Perniss & Vigliocco, 2014; Imai & Kita, 2014)は多くの研究者に支持されている. 他方で異言語比較研究では,身体とのつながりが強いオノマトペでも,個別言語の音韻体系に大きく制約された恣意性をもつことも示された(Saji et al., 2019).このことは,身体に接地しながらどのように記号の抽象化が進んでいき,子どもが言語習得の過程でどのように抽象的な概念を身体化していくのかという問いこそが重要であることを示す.本研究では,こういった記号接地問題(Harnad, 1990)と呼ばれる問題を解明するために,音象徴の進化の過程に焦点をあて,生物学的要因を基盤とする類像性が文化的,言語学的な要因とどのように相互作用するのかを,言語学,認知心理学,数理心理学,神経心理学,フィールド言語学の学際的な共同研究によって,多角的,多層的に明らかにするため,言語共通の音象徴性と言語固有の音象徴性を作り出す要因の同定や聴覚障がい者の音象徴性に関する調査・分析を行った.さらに,音象徴性に加え言語進化において本質的でありかつ非常に重要な問題である対称性推論についての学術論文を成果として公開した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
言語習得における本質的な課題の1つに対称性バイアスの問題がある.この問題は本来一方向でしか成り立たないAならばBの関係の学習から逆方向のBならばAを同時に推論してしまうというものであり,言語学習前の乳児が、そのバイアスを獲得していることに加えチンパンジーにはそのバイアスが見られないことを明らかにし,この成果を、人間特有の思考バイアスの起源と言語の起源に迫る発見として、2021年度論文として投稿・採択された。 次に,言語共通の音象徴性と言語固有の音象徴性を作り出す要因の同定,のテーマにおいては触覚素材を用いて日本語・英語・チェコ語の各言語の話者による音象徴表現を収集し,各刺激に対してどのような特徴を見出し,どのような音が用いられたのかを分析した.その結果,日本語における摩擦の意味評定と有声/無声の関連など従来の研究結果と一致する結果を得られるとともに,英語やチェコ語における連続する子音による表現も得られ言語が個別に持つ音韻的な構造による影響も見られた. さらに,聴覚障がい者の持つ音象徴性を検討するため, bouba-kikiとして知られる丸い図形と尖った図形に対し,音象徴研究においてこれまで用いられてきた無意味語を提示し,当てはまるかどうかを回答してもらった.本調査の結果を学会および学術論文として公開予定である. また、音象徴の脳内基盤の検討つまり失語症患者を対象とした音象徴性の調査についても,従来の回答結果を分析する研究手法のみではなく,視線計測を用いたオノマトペの判定や,恣意性の高い語群に対する課題について調査を行うよう準備を始めている.
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